今回の記事は、2021年8月2日に開催されたパーフェクト社主催「Beauty Tech Forum」ウェビナーに登壇されたコーセーミルボン コスメティクス 株式会社 代表取締役 副社長 湯澤康弘さんと、株式会社ユジェット 代表取締役 弓気田 みずほさんのお話を基に記事化しております。ウェビナーのアーカイブ動画もございますので、ぜひこちらよりご視聴下さい。
湯澤:私の所属するコーセーミルボン コスメティクス株式会社は2017年7月に設立した、コーセーとミルボンの共同出資による合弁会社です。両社の強みを持ち寄り、美容室向けのスキンケア・メイクアップ製品の開発・販売を行なう会社なのですが、コーセーが製造し、ミルボンが販売する、その間の立ち位置で商品企画やマーケティングを行なっています。
弓気田:現在は化粧品会社のブランディングやプロデュースに携わっています。百貨店バイヤーの経験を活かし、ブランドの理念や商品の魅力をできる限りスムーズにお客様に伝えることができるよう、さまざまなツールやコミュニケーションの組み合わせを提案・活用し、ブランドをサポートしています。
湯澤:カウンセリングツールの一つではありますが、美容師とお客様の心を繋ぐコミュニケーションメソッドとして作りました。基本としてCute/Fresh/Elegant/Coolの4象限のマッピングをベースに、お客様の髪と顔の印象付けを行なっていきます。お客様がどこに位置するかを、美容師と確認するためのツールです。
弓気田:ブランドとお客様とのコミュニケーションにおいて、お客様の自分に対する印象や「どうなりたい」という理想のイメージを引き出すことが重要です。しかし、明確に「こうなりたい」とお話できるお客様は少ないので、「印象プロデュース」のように全体像で提案できるのは良いことだと思います。またヘアメイクのトータルな印象を提案できる点もユニークですね。
湯澤:髪に関する質問6点と、顔に関する質問6点があり、それぞれの結果をインプレッションマップにマッピングします。顔の印象とヘアの印象を同じマップにのせることがユニークな手法で、そこからどこへ行きたいのか「なりたい印象」を聞くことで、コミュニケーションが膨らみます。また、マップで可視化することで本人も美容師も気づきがあり、双方の認識のすり合わせができます。
弓気田:ヘアに限らず、カウンセリングでは、販売員がかなえたいイメージと、お客様がなりたいイメージの齟齬が発生することがあります。このすり合わせの確認作業が入ることで、イメージを大きく変えたいのか、現状をキープしながら少し変えたいのか、お互いのコンセンサスが取れますね。
湯澤:そこがポイントですね。お客様の満足度にもつながります。
湯澤:最終的には、ゾーニングを変えない人向けと、ゾーニングを変えたい人向けの商品提案ができるようになっています。髪の毛でゾーニングを変えた場合、お化粧品もゾーニングを変えましょう、という提案ができますね。一般的な化粧品の薦め方とは全く違います。
弓気田:20年以上にわたり、化粧品を美容室で売ることのハードルがありました。髪のプロではありますが、化粧品のプロではない美容師が、どのように化粧品を売ることができるか。この課題に「印象をコントロールするプロである美容師が、髪と肌のトータルコーディネートを提案する」という切り口を提案したのがコーセーミルボン コスメティクスであり、これまでの化粧品ブランドが越えられなかった壁を超えたのではないかと思っています。
湯澤:「インプレア」では化粧品の箱のフラップのカラーも、ゾーニングのカラーを配置しています。このようにカウンセリング方法をもとに作られた化粧品は珍しく、あくまで美容師さんを中心に考えて作った商品となります。
湯澤:まず消費者調査からわかったことは、「美容室はサードプレイスだ」ということでした。普段よりもおしゃれをして出かけることで、気分のリフレッシュになり、外見も内面もきれいになれる、という声が多く、ここは我々にとって少し予想外の回答でした。また美容師は「変身願望をかなえてくれる」というイメージで、「自分の嗜好を理解していろいろな提案をしてくれる」「新しい自分を発見できる」ということを期待されていることがわかりました。同時に美容師さんへのヒアリングも行ないました。美容師さんのインサイトとしては「物売りはしない、付加価値のプロフェッショナル」であり、技術を中心にお客様に付加価値を提供しているという自負をお持ちであることがわかりました。我々からするとなかなかブランドが育ちにくい環境であるというのが正直な感想でしたが、同時に面白いジャンルだなと感じました。
ー お客様と美容師さんの双方のインサイトをくみ上げて考案したのが、印象プロデュースということですね。ほぼ完成しているように見える印象プロデュースのメソッドですが、さらにヘア&メイクシミュレーターを導入した理由を教えてください。
湯澤:美容室のルーティンは決まっています。その中にどのように印象プロデュースのメソッドを組み込んでもらうかを考えた際に、肩を張らずに楽しく行なってもらうために、シミュレーターを導入しました。またアイブロウの新製品発売もあったのと、ミルボンの「オルディーブ」から「ルーセントライン」が新発売になるタイミングで、ヘアカラーのシミュレーターを検討していたということもあり、ヘア&メイクのシミュレーター導入となりました。
湯澤:初動では週10万回のトライがあった週もあり、非常に好評です。今は週4~5万回のトライで落ち着ていますが、利用が定着しているのを感じます。
弓気田:ここでポイントとなるのは、美容雑誌でタイアップを打たれたことですよね。これまでサロン専売ブランドは、コンシューマー向けのコミュニケーションをしてこられなかったと思います。消費者はタイアップを見て、オンラインでは美容室へ買いに行く、ということができたでしょうし、サロンへの導入を増やしていくという中でも、美容師のモチベーションにもつながったのではないでしょうか。
湯澤:はい、シミュレーターを導入しただけでは(定着は)難しいと考えていたので、立体的なコミュニケーションを意識しました。美容雑誌へのタイアップに加え、美容師さんの力も借りてインスタグラムでプロモーションしたり、店頭でもわかりやすい訴求をしたりと、シミュレーターをハブに連携したプロモーションを心がけました。
湯澤:大きなハードルはありませんでした。どちらかというと、これからが重要だと考えています。美容師さんに使ってもらい、お客様との心をつなぐツールとして、ずっと使い続けられるものにしていくことが大切だと考えています。
ー バーチャルメイクのシミュレーターは、通常ブランドがお客様にどれだけ使ってもらえるか、というエンゲージメントが鍵となりますが、こちらの場合は美容師さんとお客様にいかに使ってもらえるか、という点で工夫が必要になりますね。
弓気田:現在、多くのブランドがバーチャルメイクアップのシミュレーターを導入していますが、導入したきりになっているブランドを見かけます。シミュレーターはコロナ禍でこれまで接客を通じてモノを売っていた業態が苦戦を強いられる中、お客様に触れることができない不利をお客様と同じ画面を見てシミュレーションを行なうことで、バックアップできるものです。店頭の方々もプライベートでzoomなどを使うようになり、技術への懐疑心も少し薄れてきたように感じます。今後、このようなバーチャルメイクのシミュレーターなども、コミュニケーションツールとしてブランドお客様の両方からブラッシュアップされていくのではないかと思います。
湯澤:お客様、美容師さんともに良い反応をもらっています。お客様からは「これまで美容師さんにお任せしていたのですが、自分でもシミュレーションしてみます」といった声や、「(シミュレーションした)画像を保存していいですか?娘と相談して、また来店します」といった声が聞かれたり、「眉の変化でこれだけ印象が違うのですね」といった気づきの声も聞かれました。美容師さんからは「化粧品提案の声がけのハードルが下がった」という声が多くありました。美容師さんの得意分野であるを髪をからめた印象プロデュースというツールは用意しているものの、やはり化粧品を売ることのハードルがある中で、シミュレーターによりビジュアル化されることが、提案のしやすさにつながったようです。
湯澤:「似合う」「似合わない」など、会話も弾むのだと思います。
弓気田:サロンでカラーリングをする際に、事前にお客様自身が「こういう風に変われるんだ」というイメージを持つことができるのはメリットだと思います。あらかじめ、仕上がりがイメージできることで、満足度が変わってきます。この1年、自宅でヘアカラーをすることが増えましたよね。「鬼滅の刃」ブームも後押しし、ドラッグストアでも目立つカラーのラインアップが増え、自宅でもインナーカラーなどで派手なカラーに染める方が増えました。しかし自宅できれいに染めることは難しく、ダメージや染まり方など、サロンでプロフェッショナルな方と相談しながら染めることのメリットを伝えることにもなったのではないか、と思います。
*8月2日開催Beauty Tech Forum ウェビナーの様子
湯澤:印象プロデュースが、ハサミやカラー剤のように美容師さんのツールの一つになることが理想です。この道具(=印象プロデュース)を使えば、提案の幅は広がります。これまで化粧品だけでは提案できなかった、全身のトータルプロデュースができるのは、美容師さんだけだと思います。しかしお客様の中で、ヘアサロンで化粧品を含めたトータルの印象プロデュースをしてくれると知っている方はまだまだ少ないと思います。
弓気田:美容師さんのウエストポーチに、ハサミと一緒にタブレットに入っている時代がくるでしょうか。
湯澤:サロン業界全体の意識を変えていかないと、我々がやりたいことは実現できないと考えています。差別化というよりも、まずは化粧品をサロンで販売することに賛同してくださる方々とともに歩んでいきたいと考えています。
弓気田:湯澤さんのおっしゃる通り、サロン業界として変えていく必要があります。この1年、サロン専売品のメーカーさんによる、一般消費者の方に向けた知識やテクニックのコミュニケーションが増えてきています。一般のお客様に、サロントリートメントなどに関するプロの知識を配信する機会が増えてきています。お客様により深い知識を持ってもらい、サロンでよりアドバンスなカウンセリングができるようになると、より理想的なコミュニケーションができるのではないかと考えます。これを行なっているのがコーセーミルボンさんであり、他のサロンメーカーの方やサロンで化粧品を売りたいと考えるメーカーの方々のお手本になっていただけると素敵だな、と思います。
弓気田:シュウウエムラでは、ファンデーション選びのための「ファンデーションファインダー」というツールを展開しています。肌色のマッチングにとどまらず、ファッション寄りの視点からファンデーションを選ぶことができるツールです。こちらもお客様ご自身で決めていくというよりは、サロンでアーティストの方とコミュニケーションしながら自身の嗜好まで深堀りし、色を選んでいくツールになります。また女性だけではなく男性も多くモデルに起用することで、ファンデーションは女性だけのモノではないというメッセージを発信している点も先進性があると思います。また資生堂は顔の構造を3Dでとらえるということをさまざまなブランドで行なっているのですが、直近の取り組みとして、美しい笑顔の作り方に特化した「美活ジム」というアプリがあります。口角の上がり具合や、微笑んだ時の頬の左右差を把握することで、メイクだけでなくマッサージやお手入れにより、その方のいい表情を引き出すトレーニングができるように作られています。
いままではカウンセリングツールとして応用されきた技術を、お客様と一緒に使うことで表情を作るトレーニングができるというものでになり、印象もコントロールできるというアプローチです。
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