コロナ禍においてファッション業界には深刻な打撃を受けた企業が多く見られました。しかし、現在では需要は回復してきているというデータもあります。コロナ後に回復すると思われる需要を逃さないために重要なのがECです。しかしECには「試着が難しい」という欠点があります。
これを解決できるかもしれないのがAI/AR技術です。本記事ではファッション業界の課題とAI/AR技術を用いたソリューションについて解説します。
ファッション業界における課題
ファッション業界においては以下の3つの課題が存在します。
ECの急速な普及に乗り遅れないこと
コロナ禍以降、ファッション業界にもECの波が訪れ、オンラインで服を着ることは当たり前になっています。経済産業省の調査によると2015年にわずか9%だったファッション業界のEC化率は2020年には19.44%にまで増えました。
【参考】
電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました/経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210730010/20210730010.html
ファッション業界におけるEC需要はめざましく伸びています。これだけ急速に市場拡大すると競争も激化します。
ファッションECにおける課題は「試着」や「顧客体験」です。衣服やメガネ、アクセサリーなどを購入する際は試着が付きものですが、ECではそれができません。したがって、他の業界と同じようにECを導入すると、店舗での購入と比較して著しく顧客体験の質が低下してしまいます。
いち早く課題を解決し、良質な顧客体験を提供するかがファッションECの肝です。この課題を解決できた企業はできていない企業に比べて大幅にECのメリットを享受できるのです。
コロナ後の需要回復をしっかりとキャッチすること
コロナ禍においてファッション業界には深刻な打撃を受けた企業が多く見られました。2022年8月現在ではまだ第7波の途中にあり、完全に収束してはいません。しかし、ファッション業界の需要は回復しつつあります。
フルカイテン株式会社の調査によると、2021年3月~2022年2月期の主要アパレル企業16社の業績は11社が増収、9社が増益、1社が黒字転換となっています。増収した11社はコロナ以前の水準を回復しました。
【参考】
主要アパレルの2022年2月決算はコロナ前へ回復/フルカイテン株式会社
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000025713.html
この需要の回復に伴って、店舗に顧客がまた来るようになると思われます。しかし、長いコロナ禍の間に人々は店舗に訪れずECで済ますことに慣れてしまいました。確かにECは気軽にブランドを知るための入り口としては非常に有用ですが、やはり本当にブランドのファンになってもらうには、店舗にも来るようになるほうが望ましいです。そこでECから店舗へ人々を誘導するような対策が必要になります。
メタバースへ対応すること
メタバースという言葉が注目されています。メタバースとはオンライン上に構築されたバーチャルな3D空間を指します。ファッション業界とメタバースには特に親和性があるのです。
なぜならメタバース空間におけるECという需要があるからです。展開イメージは以下の通りです。
- メタバース空間にリアルと同じ構造のバーチャルデパートがある
- バーチャルデパートにはバーチャルに再現した衣服やメガネ、アクセサリーが陳列されている
- ユーザーのアバターは現実の体型やファッションを反映できる
- ユーザーはメタバース内で衣服などを試着し、購入する
- 後日、ユーザーのリアルの自宅に同じデザインの衣服が届く
これは今までにない全く新しい顧客体験を提供するものとして注目されています。
※画像出典:https://www.rev-worlds.com/place/4
すでに三越伊勢丹はメタバース内の百貨店で買い物が出来るREV WORLDSというサービスを開発し運営開始しています。関連するイベントをREV WORLDS内で開催する試みも実施されているようです。すでに実用化が始まっているので、今後、いち早くファッションにおけるメタバース活用に成功した企業が先行者利益を手にするかもしれません。
AI/AR技術によるソリューション
これらファッション業界の課題、トレンドへいち早く対応できるAI/AR技術を用いたソリューションをご紹介します。
AI/AR技術の概要
AIとは人工知能(artificial intelligence)の略称で、人間の知的能力をコンピュータ上で実現するに開発されたさまざまな技術やシステムのことです。例えばディープラーニングによって大量のデータの学習を効率化し、システムが以下のような作業をすることが可能となります。
- 車の自動運転をする
- 絵や作文などの創作活動をする
- 人の顔を解析して見分ける
一方、ARとは拡張現実(Augmented Reality)の略称です。拡張現実とは現実の空間に仮想世界を重ね合わせて表示する技術を言います。これを利用すると例えば以下のようなことができます。
- 位置情報と連動させ、その場所に応じたコンテンツをカメラ映像や画像に合成して表示
- マーカーと呼ばれる図形をカメラで読み取り、マーカーの位置にコンテンツを表示
- 現実の物体が何なのかを識別し、その物体に応じたコンテンツを表示
ファッション業界におけるAI/ARソリューションの展開イメージ
ファッション業界のビジネス上の課題がAI/ARで解決できる理由は、AIとAR技術を組み合わせて試着やレコメンドの機能をEC上に搭載できるからです。
例えば以下のような展開イメージが考えられます。
- スマホのカメラで自分の手を撮影しながらAR技術で好みの指輪の試着ができる
- スマホのカメラで自分の顔を撮影しながらAR技術で好みのメガネの試着ができる
- 自分の全身の写真を元にAR技術で好みの衣服の試着ができる
- AIが顔の造形を高い精度で分析し、似合うメガネのフレームを提案してくれる
- AIとARを用いてメタバース内で試着ができる
これらのサービスをEC上に搭載すると、誰に気兼ねする必要もなく好きなだけ試着が楽しめます。今までに着こなす自信がなかったようなタイプのファッションも試しに着てみることができるのです。
これは店舗にも無かった顧客体験です。AIとARによるソリューションをEC上に搭載することで、店舗にもひけをとらない体験価値をもたらします。
複数な販売チャネルで、様々なファッションアイテムのバーチャル試着ができます。
また、これらのソリューションは、ECでの購買意欲を喚起するだけではなく、顧客を実店舗へ誘引する効果もあります。バーチャルな試着モジュールやメタバース内での試着をすると店舗に行ってリアルでも試着したくなるのです。今後のファッション業界ではAIとARを活用した、ECと店舗の連携が肝となってくるでしょう。
展開事例
ファッション業界におけるAIやARはすでに実用化が進んでおり、以下の展開方法の事例があります。
GUCCI
AIやARをECにおいて活用しているラグジュアリー系ブランドにGucciが挙げられます。Gucci はパーフェクト社のAIとAR技術を応用したバーチャルメガネを自社ECサイトに導入しています。SNSなどで人気の商品を手軽にオンライン上で試着できるのです。
ECサイトにおいて、まずアイテムのページにアクセスすると「試してみる」と書かれたボタンがあります。これがバーチャル試着の起動ボタンです。ボタンを押すとすぐにバーチャル試着が起動するようになっています。重要なのはシームレスであるという点です。
アプリをダウンロードしたり、アカウント登録したりという手間が入るとユーザーは離脱していまいます。ユーザーを興ざめにさせずに簡単にモジュールに移行することで、楽しい体験となるのです。
JINS
他社事例ですが、2021年メガネ業界大手ブランドJINSはバーチャル試着サービスを始めました。このサービスの特徴はAIが顧客の顔の造形を分析に、似合うメガネをおすすめしてくれる点にあります。自分にどんなメガネが似合うか第三者にアドバイスしてほしい人は多いですが、なかなか友人や知人に頼むのも気が引けると思う人も多いでしょう。JINSのECサイトはAIが自分にどんなものをおすすめしてくるかという楽しさもあるのです。
カネボウ
これはファッション業界と非常に親和性が高いコスメ業界の事例ですので参考になるでしょう。カネボウの化粧品ブランド「ルナソル」は、パーフェクト社のバーチャルメイクモジュールを活用しています。2020年は対前年比272%のトライ数を記録し、ユーザーから好評を博していることが証明されました。
バーチャルメイクもメガネのバーチャル試着などと原理は同じです。ユーザーの顔をカメラで撮影しながら、AIが顔の造形を認識し、最適な位置へメイクを合成します。メイクはAR技術によってリアルと見紛うほどに精巧に再現されます。
まとめ
ファッション業界はコロナ禍で深刻な打撃を受けましたが、現在では回復基調にあります。コロナ禍とその後の需要回復においてはECでのユーザー体験向上やメタバース等新しいトレンドへのいち早い対応が鍵を握ります。
AIやARを用いた試着モジュールによってユーザーの体験価値を向上させましょう。メタバースの発展の動向も要注目なので、今後メディアが報道するニュースにも注目しておきましょう。
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