化粧品ECの市場規模は拡大傾向にあるものの、化粧品EC特有の背景により、そのEC化率は主要な物販分野に比べると低いままとなっています。
この記事では、化粧品EC市場の近年のデータ紹介から、化粧品ECの伸び悩みの原因となっている課題およびその対策をご紹介しています。
化粧品業界の市場規模、EC化率の現状
化粧品・コスメECの市場規模は拡大傾向にあるものの、その市場規模とEC化率は他の物販系分野に比べると低いものとなっています。
市場規模とEC化率の推移(経済産業省データ)
以下は経済産業省が公開しているデータを元にした、近年の化粧品・コスメEC分野の市場規模、EC化率に関するデータです(金額が市場規模、かっこ内がEC化率)。
※以下のデータは化粧品・医薬品分野の合算データとなっています。
- 2018年 : 6,136億円(5.80%)
- 2019年 : 6,611億円(6.00%)
- 2020年 : 7,787億円(6.72%)
- 2021年 : 8,552億円(7.52%)
- 2022年 : 9,191億円(8.24%)
(参考:令和4年度電子商取引に関する市場調査ほか、経済産業省)
物販系分野のBtoC-EC市場規模内で化粧品・医薬品分野は、2019年までは緩やかに成長を続けていく中、2020から新型コロナウイルス流行の影響を受けその伸びが加速、2022年に至るまで拡大傾向が続いています。
それに伴いEC化率も伸びているものの、2022年のEC化率は他の主要な物販系分野が20~50%に達する中、化粧品・コスメEC分野のEC化率は全体平均9.13%より低い8,24%と小さな割合となっていることが分かります。
化粧品業界のEC化率も調査
富士経済グループの調査結果によれば、2020年の国内化粧品市場は全体で2兆7,502億円、化粧品ECが3,757億円(13.7%)となっています。
前年の2019年のEC化率は9.7%であるため、富士経済グループのデータからも化粧品・コスメのEC市場は拡大しつつも、EC化率はそれほど高くないことがうかがえます。
(参考:拡大する国内の化粧品EC市場を調査、富士経済グループ)
このように化粧品市場のEC化が進んでいない背景には、化粧品・コスメ特有の課題が関係しています。
化粧品ECの課題とは?
化粧品・コスメECのEC化が進まない理由には、店頭販売に対する根強い支持、激しい競争による参入の難しさ、また化粧品ECでの過去の問題が関係しています。
質の良い化粧品を身近で安価に手に入れやすい
日本ではドラッグストア、コンビニ、雑貨店が都市部だけでなく、地方にも多数存在しているため、日常の中で買い物ついでに化粧品を入手しやすい環境が整っています。
とくにこれらの店舗で売られている「プチプラ」と呼ばれる安価な化粧品は、ECサイトで販売されていないブランドも多く、全国のドラッグストアやコンビニなどで若い女性を中心に人気を博しています。
実際に株式会社TesTee(テスティー)の調査では、高校生の41.2%、大学生の38.3%がプチプラをデパコス(デパートで売られている高価格帯のコスメ)の代用品として購入していると回答しています。
(TesTee(テスティー)調べ:https://www.testee.co)
例えば、キャンメイクのようなプチプラブランドは、手頃な価格で高品質な商品を提供しており、若い世代の会社員でも利用者が多くいます。
若い世代の会社員女性はプチプラとデパコスを状況に応じて使い分けているため、店頭で買えるプチプラに対する強い需要の一因となっています。
実際の体験を求める需要が強い
一方で、高級化粧品(デパコス)に関しては、「高いものだから購入で失敗したくない」との思惑から、実際に店頭で製品を試してから購入したいというニーズが根強く存在しています。
とくにデパートにおいての店頭販売は、消費者は店員のアドバイスを受けながら、使い方やオススメの製品について相談して購入できるため、安心感があり、根強い需要があります。
ただし近年ではデジタル技術の進展により、オンライン上での接客や相談、バーチャルメイクによる体験が可能になっているため、店頭からオンラインへの新たな流れが生まれることが予想されています。
レッドオーシャン市場である化粧品業界
市場が成熟し、競争が非常に激しくなっている市場のことはレッドオーシャン市場と呼ばれます。
日本の化粧品市場は、まさにこのレッドオーシャンの状態となっています。
2019年の売上高に基づく国内化粧品市場のメーカー別シェアを見ると、上位の大手5社だけで39,3%と市場の大半を占めている現状がうかがえます。
- 資生堂グループ:13.2%
- 花王グループ:12.1%
- KOSEグループ:7.3%
- P&G:3.7%
- ポーラ・ORBIS:3.0%
(参考:「化粧品産業ビジョン」令和3年4月化粧品ビジョン検討会、経済産業省)
このように化粧品市場では、国内大手メーカーや外資系メーカー、その他通信販売大手市場がすでに市場を席巻しているため、新規参入企業や中小企業の参入に対して大きな障壁となっています。
デジタルマーケティング分野でも競争が激しい
前述のとおり、すでに大手メーカーが席巻している化粧品業界では、デジタルマーケティングにおいても競争が激化しています。
大手企業は潤沢な予算を使い、ウェブ広告費やSEO、SNSといったデジタルマーケティングに多額の資金を投じているため、これがウェブ広告費の高騰や競争の難易度の上昇を招いています。
予算や人的資源が限られる新規参入企業や中小企業にとっては、デジタルマーケティングにおいても難易度の高い状況に置かれているのが現状です。
さらにGoogleにおける健康アップデートと呼ばれる検索アルゴリズムの変化により、健康食品や化粧品に関する口コミサイトやアフィリエイトサイトを通じた集客が困難になったことも、デジタルマーケティングに大きな変化をもたらしました。
過去の健康食品や化粧品分野においては口コミが集客の重要な要素を占めており、口コミサイトやアフィリエイトサイトからの集客は重要な経路として機能していました。
しかしGoogleによる健康アップデートは、健康食品や化粧品分野の口コミサイトやアフィリエイトサイトの順位を下げる結果となり、それらを通じた集客は大きく衰退する結果となってしまいました。
過去のこういったサイトによる集客の代わりに、現在では人気のあるインフルエンサーを活用したマーケティングが新たな集客方法として台頭しています。
化粧品ECに対する根強い不信感
化粧品ECサイトでは、販売競争が加熱する中で過去に行われた強引な販売手法が、ECの普及を妨げる要因の一つとなっています。
過去にはECサイトで「知らないうちに定期購入になっていた」という問題が、大きな社会問題となりました。
定期購入であることを販売者側が意図的にわかりにくくしていたこの問題は、消費者の化粧品・コスメECに対する信頼感を大きく損う結果となりました。
その後、2022年6月に特定商取引法の改正が行われ、トラブルを引き起こす恐れのあるサイトや表記に対する規制が強化される事態となっています。
(参考:特定商取引の改正についてー通信販売規制を中心にー、消費者庁)
また、過去には宣伝であることを隠して、有名人やインフルエンサーに報酬を支払い、製品を紹介してもらうステルスマーケティング(ステマ)も大きな問題となりました。
ステルスマーケティングに関しても、2023年10月1日から景品表示法による規制が導入されています。
(参考:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります、消費者庁)
しかし現在でも同様の問題は続いており、化粧品・コスメECに対する消費者の不信感を払拭できない原因となっています。
化粧品EC運営で今後とるべき対策
化粧品ECでは、根強い店頭販売の人気、大手が席巻する市場環境とマーケティング難易度の高さ、過去の問題による不信感も影響し、EC化が思うように進んでいません。
そのため、これらの問題への対応が今後とるべき対策となります。
ここからは今後注力すべき対策を4つに分けてご紹介します。
1) デジタルマーケティングの更なる活用
大手が強い背景はありますが、化粧品・コスメECにおけるデジタルマーケティングは、今後注力すべき部分であることには変わりありません。
✅SNSの活用
消費者の間に根付いているSNSを用いたマーケティングは、今後の化粧品ECで注力すべき分野です。
SNSを活用することで、消費者に直接情報を届けるだけでなく、双方向のコミュニケーションを図れるため、ブランドの魅力をより効果的に伝えると共に、ユーザーとのつながりを深めることによるファン化、そこからEC販売への導線とすることもできます。
Instagramのようなビジュアルに重点を置いたSNSや、YouTube、TikTokのような動画を用いたSNSは化粧品・コスメECと相性が良いため、積極的な活用が推奨されます。
✅UGCの活用
UGC(ユーザー生成コンテンツ)とは、消費者自身が生成するコンテンツを指します。
UGCは製品に対するリアルなレビューや使用例などとして、他の消費者に信頼されやすい情報源として役立ちます。
UGCを活用できるデジタル技術をマーケティングに積極的に採り入れていくことは、今後の化粧品・コスメECに欠かせないマーケティング戦略です。
✅インフルエンサーマーケティングの活用
SNSなどで影響力を持つ人物を通じて製品を紹介する手法は、SNSが普及した現代において有効な集客方法の1つとなっています。
属性にあったフォロワーを抱えるインフルエンサーを活用することで、製品を効果的に紹介できます。
ただし、近年問題となったステルスマーケティング(ステマ)規制には注意が必要です。
規制に対する知識のあるインフルエンサーと協力することで、適切な運用を心がける必要があります。
✅オムニチャネル戦略
これまでは分かれていた、オンラインとオフラインの販売チャネルを組み合わせて活用したオムニチャネル戦略も、今後普及していくことが予想されています。
たとえば消費者がオンラインで情報を得た後に店舗で実際に製品を体験する、またはその逆のパターンなど、複数のチャネルを通じて一貫した体験を提供することで、ユーザーの利便性を向上し、企業と消費者の関係を構築しながら、スムーズな販売につながることが期待されています。
✅CRMの活用
CRM(顧客関係管理)は顧客管理に役立つだけでなく、顧客とのやり取りを通じて顧客データを分析することでその傾向を理解し、それぞれの顧客に合わせた情報配信やキャンペーンの展開に役立てられます。
2) デジタル接客技術の活用
デジタル技術を活用した接客も、今後の化粧品・コスメECにおいて重要な施策の1つになることが期待されています。
✅オンライン接客
化粧品・美容業界におけるオンライン接客は、新型コロナウイルス感染症の流行を経て普及が進みました。
オンラインで担当者が直接消費者と会話をしながら、肌の悩み相談から、肌質やトーンに合った製品案内などを行うことで、化粧品・コスメEC分野では難しかった細やかな個別対応を可能にしています。
たとえばORBIS社では、消費者が専属のビューティーアドバイザーとビデオ通話でメイクや美容に関する相談ができる、ORBISオンラインカウンセリングを提供しています。
✅デジタルカウンセリングサービス
AIやARを活用した肌診断やバーチャルメイクを活用して、店頭に行かなくても診断や製品体験ができるデジタルカウンセリングサービスも普及が進んでいます。
肌診断や化粧品選びで実際の体験を求める人は、今までは店頭に行く必要がありました。
しかしデジタル技術の進歩により、時間や場所の制約を受けずに体験が可能となり、化粧品・コスメEC普及の促進につながることが期待されています。
KOSEが提供するHADAmiteは、パーフェクト社のAI肌分析機能のブラウザ向けモジュールを活用することで、肌チェックだけでなく、未来のシワチェック、ベースメイクチェック、ポイントチェックメイクまでをスマートフォン1つで実施できます。
(参考:HADAmite、KOSE)
✅ライブコマース
ライブコマースでは、企業と消費者がオンラインでつながり、実店舗での買い物体験に近いオンラインショッピング体験が可能になります。
たとえば資生堂は2020年にはオムニチャネルの一環として、ビューティーコンサルタントが化粧品や美容法を紹介しながら、消費者とリアルタイムでやり取りを行い、オンラインで商品購入が行えるライブコマースを開始しています。
(参考:資生堂、消費者の購買意識変化を捉え、ライブコマースを国内で本格スタート、資生堂)
✅LINEなどのチャットサポート
LINEのようなチャットベースのツールは、消費者側も使い慣れている人が多いため、オンライン接客サービスとして導入しやすいメリットがあります。
消費者は普段のチャット感覚で気軽に質問できるため、接客時の満足度を高めると共に、抵抗なく企業側のサービスを利用することにもつながります。
3) リピート施策の充実
競争が激しい化粧品業界においては、安定的な売上につながる定期購入への誘導は重要な施策の1つです。
定期購入は消費者側に対しても、買い忘れ防止や、定期購入による割引などのメリットがあります。
定期購入を適切に運用するためには、システムの整備や購入が継続化するポイント制度、回数に応じた割引制度などのサービス面の充実も欠かせません。
最近では、化粧品のお試しは店頭で行い、その後の定期購入はオンラインで行うというマルチチャネルな施策を実践している企業も出てきています。
4) 信頼性、透明性への対策、関連法の遵守
信頼性を獲得するためには、ユーザーからの口コミが有効な手段となります。
これは化粧品購入において、口コミを重視する人が多いためです。
さらに口コミは信頼性獲得以外にも、体験レビューから品質向上に活かせるヒントを得られたり、新しい商品開発に役立つアイデアを得る方法としても役立ちます。
過去に問題となった定期購入やステルスマーケティング(ステマ)問題を教訓にした、透明性の確保も求められます。
定期購入に関しては契約条件や解約方法などを明確に提示すること、ステマ規制に関しては広告であることの明記など、特定商取引法、薬機法、景品表示法などの関係法令を遵守し、消費者が安心して購入できる運営を行うことが必要です。
化粧品ECにおける実際の対策事例
化粧品ECにおける今後の成功には、デジタル技術を活用したサービス提供が今後大きな役割を果たしていくことが期待されています。
以下に代表的な化粧品メーカーの事例をご紹介します。
✅資生堂:バーチャルメイク
資生堂バーチャルメイクサービスでは、ユーザーが自分の顔写真をアップロードすることで、さまざまな化粧品を仮想的に試せます。
アイテムを自由に組み合わせてメイクのシミュレーションを行うことができ、気に入った製品は資生堂のECサイト「ワタシプラス」でそのまま購入できるため、体験から購入までが一貫した仕組みは、オンラインでの販売促進につながります。
(参考:バーチャルメイク、資生堂)
✅KANEBO:AIカウンセリング
KANEBOは、AI肌診断やAIフェイスアナライザーを活用したカウンセリングを提供しています。
AIを用いたこれらのカウンセリングでは、消費者の肌質や肌の悩みに基づいて、最適な化粧品の提案が行われることで、満足度の高い購入体験を実現しています。
(参考:KANEBO、AIカウンセリングで、ブランドらしい接客が体験できるとして美容部員からもお客様からも好評、パーフェクト社)
✅KATE:KATEZONE
KATEでは、KATEZONEと呼ばれる没入体験型ECストアを提供しています。
KATEZONEでは、メイクアップに関する分析から購入までを、すべてバーチャル空間で体験できます。
(参考:KATEZONE、KATE)
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先ほどご紹介した資生堂、KANEBO、KATEの技術には、すべてパーフェクト社の技術が使われています。
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