最近ますます盛んになってきているSDGsですが、この世界的な取り組みの中で、化粧品業界はどのような行動を起こしているのでしょうか。
また、持続可能な環境を実現するために、何を成そうとしているのでしょうか。
どの業界においても、持続可能な開発目標は、対応必須の事項となっていますが、化粧品業界でも、その動きは留まることを知りません。
本稿では、各企業の具体的な事例をもって、最新の情報をお届けします。皆様の考察に少しでもお役に立てば幸いです。
この記事の目次 |
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SDGsと化粧品・美容業界の関連
SDGsとは
実際の具体例をご紹介する前に、改めてSDGsとは何か、確認しておきましょう。
正式英名は「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」です。略語としては、今や世間にかなり浸透してきている言葉ですが、正式名称は意外と知られていません。
多くの企業において、「CSR(Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任))」に代わり、サステナビリティを管轄する組織が組成されています。
SDGsは社会的な責任を包含した、企業にとっての新たな目標として認知されつつあります。
もう一つの注目度が高い言葉として、ESGがあります。これは「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」の頭文字を取ったものですが、CSRが被評価者、ESGは企業を評価者の視点での言葉といえます。
CSRもESGも、以前と比べるとその存在感は少し薄れ、SDGsに取って代わられるものともいえるでしょう。
しかし、二点ともSDGsを達成するための手段として位置付けられますので、観点は異なるものの、重要であることに変わりありません。
歴史的には、わたしたちの経済、社会基盤となる地球において、持続可能性が危ぶまれている中で、世界各国間で様々な議論が交わされてきました。
2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)が、共通用語として知られるようになります。
SDGsは、持続可能な世界を実現するために、17の目標(ゴール)と、169のターゲットから構成されています。
また、地球上の生きとし生けるもの、「誰一人として取り残さない」ことが、宣誓されています。
化粧品産業ビジョン検討会「化粧品産業ビジョン」
化粧品業界としては、全体的な将来像、ビジョンを形成する検討会が、SDGsとデジタル化について言及しています。
ビジョンの中の具体的な取り組みとして、「デジタル技術の活用を前提としたマーケティング戦略への転換」と、「SDGsへの積極的な貢献」を並列で掲げており、両者の重要性が述べられています。
将来の日本における化粧品ビジネスにおいて、SDGsへの貢献とデジタル化への対応は、必要不可欠となっていく、と分析されています。
その具体策として、廃棄物の削減に向けたさまざまなIT技術の活用促進が、さらに強まることが予測されます。
化粧品・美容業界と関連性の高い「SDGs ゴール12」
さまざまな目標が設定されている中、17の内、化粧品や美容業界と関連性が高いゴールは、「ゴール12 つくる責任 つかう責任」です。
当該目標では、「持続可能な生産消費形態を確保する」ことが謳われています。
特に、先進国と位置付けられている欧米や日本などの国では、大量のプラスチック廃棄物を排出してしまっていることが問題となっています。
作り過ぎず、消費し過ぎずの、非常に難しいバランス感覚が求められます。
ゴール12の中で設けられているターゲット「12-5」では、「2030 年までに、ごみが出ることを防いだり、減らしたり、リサイクル・リユースをして、ごみの発生する量を大きく減らす」ことが提唱されています。
化粧品だけではなく、あらゆる領域において、廃棄物の抑制が叫ばれていますが、美容・化粧品業界では、化粧品という商品の特性上、やはりごみの削減と再発防止が、第一に取り組まなければならない問題と言えるでしょう。
店頭の毛束やコスメテスター、ネイルサンプルといった、製品の性質上、どうしても廃棄対象物が生じてしまう中で、どのような効果的な対策が取れるか、具体的に示さなければなりません。
最新美容テクノロジーで「SDGs ゴール12」を実現
世界的にSDGsへの対応が求められる環境下、別稿でご紹介した「AR(AugmentedReality(拡張現実))」は、ゴール12実現に向けた、一つの最適解を提示してくれています。
最新のAR技術を利用し、物理的な道具を必要とせず、メイク試すことを可能とする流れは、廃棄物の低減に寄与します。
ARのような新しい仕組を取り入れたサービス提供は、各企業にとって、導入障壁が高いものです。自社開発であればコストが膨大にかかりますし、新たなチャレンジとして、社内調整も大変なものでしょう。
しかしながら、SDGsへの取組は、会社としての存在価値を高め、成長と発展をもたらしてくれます。
革新的な試みを否定せず、絶えず挑戦していくことが大切ではないでしょうか。
※関連ニュース 《SDGsの取り組みに貢献したAR技術の活用事例を発表》
化粧品メーカーSDGs取り組み事例
SDGsの基本事項、また化粧品・美容業界との関連を述べたところで、次に、身近な化粧品メーカーにおける、ARを活用したサービスの具体事例をご紹介します。
結果として、上記SDGsの目標達成にも貢献することになりますが、こちらもより具体的にご説明してまいります。
①花王 「白髪用ヘアカラーシリーズ ブローネ ルミエスト」
当該商品の販売促進のため、該社は「AR髪色シミュレーション」を導入しました。
白髪染めという製品特性上、顧客の年齢層が比較的高いため、敷居を低くし、楽しく気軽に拡張現実の中で髪色変化を味わえる、というソリューションを提供しました。
コロナ禍ということもあり、店頭に赴く必要がなく化粧を楽しめるため、非常に好評を博しています。
この取り組みにより、ヘアカラー売場に設置する毛束色見本の提供を終了し、多い年では年間約56トン使用していたプラスチックが削減に至っています。
パーフェクト社主催ウェビナー:2021 The Global Beauty Tech Forumセッション3《花王の戦略的DX》より
②ホーユー株式会社「バーチャルヘアカラー(髪色シミュレーション)」
比較的新しい事象として、上記メーカーの廃棄物削減への取り組みがあります。
消費者が店頭に設置されているPOPのQRコードをスマートフォンで読み込み、体験したい色を選択、自分の顔で色味を確認することができるサービスを開始しました。
結果として、毛見本が付いていたプラスチック製の販促物を、紙製ツールに切り替えたことで、年間約30トンのプラスチック使用量を削減しました。
ごみの削減対策にARを活用した好事例です。
※関連ニュース《AR機能が、ホーユー株式会社のプラスチック使用量削減対策の一助に》
③Henkel 「ボンディングテクノロジー got2b(ゴットゥービー)」
ブリーチ剤やクリーム、スプレー販促のため、「AR髪色シミュレーター」を稼働させました。
対象の顔を、自分の写真やモデルから選んだり、商品の各ブランドを選択可能、髪の色も選べます。
画面上でいくらでも試すことができるシステムです。
毛束を作成していない商品が、堅調な販売を継続していることから、ARシミュレーターは、一程度の効果はあると考えられます。
メーカーとしては、引き続き他の商品にも展開して、対象を拡大していきたい意向を持っています。
※関連事例《got2b、AR髪色を導入、QR経由のトラフィックページ滞在時間は1.5倍に》
SDGsに繋がる美容SaaS
上記メーカーにおいて採用されているAR活用サービスは、東京都港区に位置する日本法人、パーフェクト株式会社が提供しています。
当社は、「AI(Artificial Intelligence(人工知能))」とARを組み合わせ、美と技術を融合させた各種ソリューションを打ち出しています。
わたしたちは世界各地にアンテナを張る企業であることから、SDGsの重要性は、従来から強く認識しているところです。
AI、ARを使ったメイクアップは、廃棄物削減に必ず繋がります。
前述の、各企業の取り組みとは少し違う観点では、デジタル技術は、テスターなど物理的な廃棄抑制のみならず、そもそも消費しない、という環境を作り出すことが可能です。
バーチャルでメイクを何度も自分好みで試せれば、無駄な買い物をする必要がなく、お財布にも地球にも優しいお化粧、美容を楽しむことができます。
このように、パーフェクト株式会社の最新のテクノロジーは、顧客を始め、一般消費者の方にも直接的に関与し、SDGsに貢献します。
もちろん、当社自体もさまざまな取り組みを行っています。
国連が打ち出すSDGsのガイドラインに従って、環境、慈善、倫理、経済的責任を含む、強固なESG戦略の育成と開発に、鋭意努めているところです。
当社は、今後もより活動を強化し、持続可能な地球環境の実現に寄与していくことを方針としています。
人間の美しさへの飽くなき欲求と、サステナブル社会の両立を、最新のテクノロジーを使って現実化していきます。
美容業界をテクノロジーで進化
いかがでしたでしょうか。SDGsと化粧品の関係、化粧品業界にできること、各メーカーのARを活用した目標への貢献の具体事例について、ご説明してまいりました。
持続可能な開発目標への取り組みを、より身近に感じていただけたことかと思います。
先に挙げた目標12ですが、それ以外のゴールも、化粧品・美容業界としてできることは多々あります。
例えば「ゴール14 海の豊かさを守ろう」です。
プラスチックごみを減らすことは、海を守ることに繋がります。
また、「ゴール5 ジェンダー平等を実現しよう」も、関連性が深いと考えられます。女性の社会進出を後押ししたり、化粧品メーカーが率先して女性の管理職登用を進めたりすれば、目標達成の一助となるでしょう。
極端にいえば、人が生命を維持する上で、化粧や美容は必要ではありません。
しかしながら、人はパンだけで生きているわけではなく、人生を豊かにしてくれるものが無ければ、生きる屍と化してしまいます。
古今東西、人々は美しいものに魅了され、また自らも美しくありたいと思いながら、命の灯を灯してきました。
とはいえ、その欲求も度が過ぎると、生活基盤を壊しかねず、本末転倒の結果を生んでしまいます。
その意味では、AIやARといったテクノロジーは、人類が自分たちの存在を維持するために生まれてきた、といえるかもしれません。
わたしたち人類の叡智は、持続可能な社会の構築を実現する可能性を秘めているのではないでしょうか。